INTERVIEWインタビュー

エニシア株式会社 代表取締役 小東 茂夫

本記事は、「Kansai Startup News」から転用許諾を得て記載しています。
転用元URL(https://kansai.startupnews.jp/post/enishia/

カルテの要約支援で、医師の働き方改革を前へ。目指すは、患者と医師で医療を成立させていく未来

働き方改革が多くの企業で進む一方、医療の世界に目を向けると多忙な病院勤務医がまだまだ大勢います。診療業務や手術に忙しいイメージがあるかもしれません。それだけでなく、医師は毎日多くの事務作業にも追われているのです。そんな中、医師の負担を減らすことを目的に電子カルテの要約作成を支援するソフトウェアを開発しているのが、京都大学発のスタートアップ企業・エニシア株式会社です。代表取締役の小東さんに、事業を始めた理由や将来のビジョン、起業志望の方へのメッセージなどを伺いました。

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患者側として感じた課題が、事業の一歩目に

まずは事業内容から教えてください。

小東「『カルテの要約』で医療の未来を変える」をミッションに掲げ、カルテ要約作成支援ソフトウェア「SATOMI」を提供しています。 SATOMIは、われわれが独自開発したアルゴリズムによって電子カルテから重要な情報を取り出し、自動で要約案を提示できるものです。要約ができることで紹介状などが簡単に作れるようになり、医師が事務作業に費やす時間を削減することができます。また、要約を作る過程で自然言語技術によってデータの構造化も行います。文章の構成要素を整理することで、カルテ情報を活用しやすくなるのです。

どんなきっかけからこの事業を着想されたのですか?

小東母が指定難病にかかり、さまざまな治療を試すため大病院を転々としたんですが、病院を変える度にこれまでの治療について聞かれるんですよね。紹介状があるため直前の病院でどんな治療をしたかは伝わっても、それ以前の情報は無くて。だいぶ前のことなので高齢の母は覚えていないし、私も兄弟と交代で母に付き添っていたのですべては把握しておらず説明できませんでした。この出来事を機に、患者と医師間での情報共有における課題を認識したのが最初のきっかけです。そして、もう一つのきっかけは、ある総合病院の泌尿器科医の先生との出会いです。

どんな出会いだったのですか?

小東医療ヘルスケア・イノベーション起業家人材育成プログラム「HiDEP」に参加していたときに、「電子カルテに課題を感じている先生がいるので会ってみたら」とその先生をご紹介いただきました。お話しする中で、大病院に勤務する医師は勤務時間の3割ほどを事務作業に費やしていること、電子カルテに入力した情報を参考に紹介状や退院時サマリなどの書類を書くが、日付のボタンを一つずつクリックしないと該当のカルテデータが表示されないなど操作性が悪く、通院歴の多い患者の情報を参照する際には膨大な時間が掛かることなどを知りました。さらに調べる中で、事務作業に忙殺されて残業時間が長くなり過労死に至る医師が存在することも知ったんです。

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患者と医師の相互協力によって医療が成立する未来を目指して

現在、SATOMIはどういったフェーズにありますか?

小東プロトタイプは完成して、まずは前述した総合病院の中で安定稼働できるようにフィードバックをもらいながら修正を行っている段階です。今後は大学病院やその系列病院にも展開を図る予定です。多くの先生方とお話しする中で、大学病院では特に必要とされていると実感します。理由の一つは、高度な医療を提供するため、治療歴や投薬歴などをしっかり把握した上で医療にあたることが必要になるから。もう一つは、研究を進める中でのデータの整理が大変だから。希少疾患の研究を行うときなどは患者さんのデータを系列病院からも収集するのですが、カルテからExcelフォーマットへの転記や、それらのとりまとめなどにすごく時間が掛かります。SATOMIを導入すればそのあたりの効率化にも貢献でき、研究を早く進める手助けになれると思っています。

今後のビジョンを教えてください。

小東医師と患者が、ともに医療を成立させていくような枠組みや姿勢をつくっていきたいです。どうしても「治療はお医者さん任せ」という意識が患者側にある気がして。でも、自分の病気のことはきちんと知っておくべきだし、受ける治療の意味や価値も知っておいた方がいい。患者側がもう少し情報を得られるようになれば、自分で調べられることは調べて同じ病気を持つ方と情報共有を行うなど、もっと主体的に治療に関わっていけると思うんです。患者が自らの健康情報を一元管理する「PHR(パーソナルヘルスレコード)」の基盤をつくろうとされている企業と連携しながら、そのための仕組みをつくっていきたいです。

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大きな転機となった、大学院連携プログラムへの参加

起業に至るまでの中で、転機になったことを教えてください。

小東銀行、監査法人系列のコンサルティング会社など数社で勤務した後に、京都大学の経営管理大学院に通いながら「デザイン学大学院連携プログラム」に参加したことです。異なる分野の専門家が協働することで社会の諸問題を解決できる人材育成プログラムだったので、さまざまな分野を専攻している優秀な学生が多く参加していました。そこで自然言語処理を専門としているNLPエンジニアの坂口さんはじめ、今の仲間と出会えなければ、SATOMIはなかったと思います。

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起業されてからは、サラリーマン時代とは異なる苦労もあると思いますがどうですか?

小東飽きないですね。これからへの期待だったり、「資金調達ができるだろうか」という不安だったりで毎日ドキドキしてますから(笑)。一つの企業で勤めた最長期間が3年半なのですが、現時点で起業して3年を越えたので最長記録を更新できそうです。多くの方々に協力していただいて事業を進めているので後には引けないですし、規制や古くからの慣習によってなかなか変化の生まれなかった医療業界に少しでも新しい風を届けられるかもと思うと、事業に取り組む意義を感じられますね。

最後に、これから関西で起業をしようとしている方に向けてメッセージをお願いします。

小東もし、「起業したいけど進め方がわからなくて二の足を踏んでいる」という方がいたら、大学に通うことを勧めます。アントレプレナーシップ教育に力を入れているからという理由もありますが、それ以前に大学自体がゆるやかな信頼関係のあるインキュベーション施設のように感じていて。さまざまな分野の研究を深めている面白い学生にも出会えますし、先生方も忙しい時間を割いて相談に乗ってくださったり、周りの方を紹介してくださったりします。特に京都という土地は学生に優しいので、のびのびとトライアンドエラーしやすい環境ではないでしょうか。

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ライター / 倉本 祐美加

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