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株式会社テクサー 代表取締役 朱 強

(2016年10月21日設立、資本金:1億6,239万円、従業員数:15名)

IoTの技術を活かしながら、人と人とのネットワークを構築し、社会を豊かにすることを使命としている株式会社テクサー。今回は凸版印刷株式会社が提供する「ZETag」を使ったスタートアップ実証実験促進事業(PoC)の実証実験として、資産棚卸に関する研究を進めている株式会社テクサーの代表取締役・朱 強さん、株式会社ソシオネクストの部長代理・浦出 正和さん、凸版印刷株式会社の課長・近藤 智則さんにインタビューをさせて頂きました。

自己紹介をお願いします

朱さんはじめまして。株式会社テクサーの朱と申します。
私は1992年に留学で日本に来ました。大阪大学基礎工学部情報科学科卒業後、奈良先端科学技術大学院情報科学研究科に2年間、富士通研究所にて半導体の設計部隊で研究開発を約7年行った後、米国ケイデンス・デザイン・システムズ社に勤務し、2016年10月に株式会社テクサーを創業しました。元々はIoT技術を利用したビジネスをしていましたが、英国ZiFiSense社の「ZETA」に出会い、現在はそれらを組み合わせたビジネスを展開しています。日本の事業者とビジネスを共に立ち上げ、後ろ盾となるテクノロジー面のサポートやアライアンス・ビジネスを作っています。私自身もデバイスの開発からプラットフォームの作成、アプリの開発などの全てを経験してきたこともあり、その辺りを展開できるのも私たちの強みです。

左から凸版印刷 近藤氏、テクサーCEO朱氏、ソシオネクスト浦出氏(京都リサーチパークにて/編集部撮影)

IoTを使って起業をしようと思ったきっかけは?

朱さん元々は半導体関係の仕事をしてきたため、この分野での起業を考えていたのですが、半導体を使うアプリケーションがその当時はどこにも無いということに気付きました。私はハードウェア出身だったこともあり、アプリケーションよりもデバイスを作った方が自分の強みを発揮できるだろうと思いIoTを使った起業を試みました。

どのようにビジネスモデルに出会ったのでしょうか?

朱さんまず京都で創業する前に、この「ZETA」というテクノロジーと出会いました。どのように活用していこうか…と考えた時に、京都リサーチパークに事務所を構えている京都高度技術研究所(ASTEM)の上にアクセスポイントを立てて、どの範囲までこのZETAの電波を飛ばすことができるのかの実験を京都リサーチパークさんや京都高度技術研究所(ASTEM)さんの協力の元で行いました。この実験場所として東京ではなく京都を選んだ理由としては、歴史がある街に新しいテクノロジーを提供し始めると、とても注目されやすいというPR面からと、京都は皆さんが思っている以上にコンパクトな都市であるため、コンパクトにスマートシティが実現できるのではないかという発想からです。とてもエキサイティングなテクノロジーではあるのですが、ビジネス化にするのには3年ほどかかりました。最初はどうやって儲けたらいいのかすら見えていない状態から、凸版印刷さんが持つ自治体のネットワークや物流などにセンシング技術を使いながら、徐々にデジタル化していくという取り組みを一緒に行い、様々なトライアンドエラーを繰り返したことで、今のビジネスモデルとなりました。

ZETAの全体図(テクサー社提供)

今回使用したZETag GPS版(テクサー社提供)

3社が出会ったきっかけは?

朱さんまず凸版印刷さんと出会ったのは2017年頃です。我々が提供する「ZETA」LPWAによって、これまで凸版印刷さんが抱えていた課題を解決できそうということで、一緒にこの技術を使った取り組みを行いましょうと合意することになりました。この「ZETA」というのはIoTに適したLPWA通信規格で、電池駆動可能な中継器により、マルチホップの通信ができることが特徴でビルや工場、建物の多い市街地にとても強いです。2018年6月には、その「ZETA」をさまざまな社会課題に適用し、Society5.0で提唱されている「超スマート社会の実現」に貢献しようとするコンソーシアム「ZETAアライアンス」を一緒に立ち上げたり、弊社に出資して頂いたりという関係にまで発展しました。ソシオネクストさんとの出会いは、2019年頃に一緒に上海を訪問したところからだと思います。そこから、当時やっていた物流のプロジェクトで、ワンチップにできないかとソシオネクトさんに話を持ちかけたところから深い繋がりとなりました。

今回はどのようなPoCの実証実験を行いましたか?

浦出さん(ソシオネクスト)今回は弊社が入居する京都リサーチパークを舞台にして行いました。この「ZETag」を棚卸に活用できるのか、また活用するとどのような効果や結果が得られるのか、の実証実験を行いました。企業では「資産の棚卸」という業務が、年に1度、必ず発生します。棚卸作業はほとんどの場合人力で行っているのですが、ここ最近のオフィスのフリーアドレス化などに伴い、資産の把握が難しくなり、人力で行うとかなりの負担がかかります。これを何とか自動化できないものかと考え「ZETag」を使った棚卸ができないかの実証実験をしました。オフィス内にある資産1つ1つに予め「ZETag」を貼り付けておくことで、常にその資産があるかどうかをデータで管理できるようにします。

役割としては弊社が企画し、実証実験自体も我々のオフィスで実施しました。また凸版印刷さんは「ZETag」のハードウェア製作やサーバーの提供、テクサーさんがアクセスポイントの提供と技術サポートや取得したデータの可視化支援を行うという、3社一体となって取り組みました。スケジュールとしては、2022年10月頃に「やりましょう」と合意できたため、そこから順に進めていきました。第1回目の実験は2023年2月28日〜3月31日の期間で実施しました。できれば2023年度の下期頃からは本格運用したいなと考えています。

詳しい実証内容としては、弊社オフィスがある京都リサーチパーク10号館の6階と7階に、51台のタグを設置。約30分ごとに電波を送受信することで資産が確かにそこにあることを確認しています。これは資産とタグが一体化しているという前提に立って行っている実験ではありますが。今は30分毎に1回IDを送信していますが、実証実験のデータ分析を進めることで、1日1回の送信でこと足りるのかなどを判断していきます。また劣悪な環境下でも作動するかを確かめる実験もしました。今回はメインには活用していませんが、凸版印刷さんの「ZETag」には加速度センサーや温度センサーといった機能も付いているため、この実証実験結果を元にして、ゆくゆくはスマート農業などにも活用できないかと考えています。

ソシオネクスト浦出氏(京都リサーチパークにて/編集部撮影)

近藤さん(凸版印刷)今回の実証実験では機能を使っていませんが、GPSも搭載しており緯度経度などのデータも取得可能です。今後は、農産物の輸送時に「ZETag」を箱の中に入れて適温で運ばれているか確認したり、荷物等が保管される場所の温度や湿度が高すぎないか確認したりと、今後の方向性は色々と考えています。

そこに対する費用感や掛かったリソースを教えてください

浦出さん(ソシオネクスト)弊社は、人件費が掛かりましたね。今は弊社の総務も含めて協力してくれているため、割とお金をかけずにできています。棚卸が大変だというお困り事に対して、ニーズがマッチしたのだと思います。勿論、弊社だけでなく、困っている会社は多いですし、それなりに需要はあると考えています。

近藤さん(凸版印刷)今回の「ZETag」は、研究開発で試作したものを提供しています。個別に費用が発生するという話であれば、弊社としてもなかなか動けなかったかもしれません。

凸版印刷 近藤氏 (京都リサーチパークにて/編集部撮影)

朱さん弊社も人件費だけ掛かりましたが、比較的コンパクトにできました。浦出さんも仰っていましたが、資産管理の棚卸は年に1回ですが大きな負担となっている会社は多いです。また次の1年までに、例え何かが起きても誰も分からないわけですから、常に簡単にわかるようになれば需要はあると思っています。

3社で進めるにあたり苦労した点について教えてください

浦出さん(ソシオネクスト)3社で進めるにあたっては、テクサーの朱さんが調整してくださったこともあり、そこまで困ることはありませんでした。ただスケジュール的な部分や、色々と段取りをしなければいけないところがあったため、そこは大変でした。またアクセスポイントの設置についても、賃貸上の制約などにより設置場所が限られたりしましたがこれらの苦労は、次の製品化やビジネスに向けての必要なステップだと理解しています。

現段階でどのような成果を得られたのでしょか?

朱さん実際に悩んでいるお困り事を解決することは、非常に大きな一歩だと感じています。当然、まだ実証実験の結果含めて集計途中の段階ですが、これが成果に繋がれば、きちんとビジネスとして展開できると考えています。また、次のフェーズとしてどのようなところと組み合わせ、どのように展開していくかです。先ほどお伝えしたように、農業への展開なども見えてきたため、これから面白い形に発展することができそうです。

PoCについて全体的な感想やご意見を教えてください

朱さんソシオネクストさんも凸版印刷さんも大きな会社ですが、PoCに対して全面的に協力して頂けました。実証実験まで時間がない中で、早急に準備して頂くなど、すごく短い時間で3社がタッグを組み、それぞれの強みが上手く交わった素晴らしい実証実験が、京都リサーチパークという創業の地で出来ていることに、とても感動しています。

近藤さん(凸版印刷)タイトなスケジュールの中でしたが、無事にスタートすることができて良かったです。また、我々の製品を、現場で活用して頂けてとても嬉しいです。開発時に何となくあったほうが良いなと思って付けた温度センサーなども、「意外とこのような使い方ができるのだな」と気付きもありました。実証実験を通して分かった新しいアイデアもあったため、今回のPoCをやった意味があったと実感しています。

浦出さん(ソシオネクスト)実証実験をやってみると、事前の予想していた結果だけでなく、実際に導き出された結果から新しく分かることはたくさんあります。例えば、長期でデータを取ることで、それを解析して分かることが沢山あります。長いスパンで見て、大量に集めたデータは、資産になります。いままでは貯めてきたものの価値をあまりにも知らなさすぎるなと改めて痛感しました。長く取ることの重要性や挑戦してみることの大事さについて、この実証実験が教えてくれたのかもしれません。

この先に描かれている展望を教えてください

朱さんこれから各成長分野に対してデジタル化がより加速していく時代であると思います。その中で、データ活用は次のステップに繋がるものです。データが沢山集まることで、このデータをどのように活用していくか。会社としてもデジタル化が進む中で新しい分野をビジネスとして伸ばしていき、自分達のコアテクノロジーやデータの活用を目指していくことで、大きく成長していきたいと考えています。

テクサーCEO朱氏(京都リサーチパークにて/編集部撮影)

スタートアップとして、京都で経営されるメリットがあれば教えてください

朱さん京都で経営するメリットとしては、すごく魅⼒的な会社がたくさんあります。京セラさんやオムロンさんなど それぞれの分野をグローバルにリードする会社が、京都に集まっています。また京都は、適度なサイズ感の都市で、 スマートシティを進めるのに最適な場所だと考えています。そんな京都で成功するというのは私にとっての夢です。どんどん挑戦していきたいと思っています。

最後にこれから起業を考える人や後輩起業家に一言!

朱さん起業の世界は諦めないことが大切です。まずはどんなことがあってもやり遂げること。頭が良いというのは、あまり関係ありません。「Never give up!」。ただそれだけです。そんな起業家の皆様とZETAアライアンスとで、より良い社会を創造できればいいなと思っています。ぜひ一緒に頑張っていきましょう!

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