EVENT REPORTイベントレポート

Kyoto Startup Challenge / Seminar ②-「スタートアップのアイデアを見つける方法」-(2021/5/21開催)

京都知恵産業創造の森では、京都におけるスタートアップの創業をサポートするために、起業に必要となる知識を体系的に学ぶことができる4回シリーズのセミナーを開催している。
第2回目となる今回は「スタートアップのアイデアを見つける方法」をテーマに、ベンチャーキャピタリスト(以下VC)であるプライマルキャピタル代表パートナー佐々木浩史氏を講師に迎え、スタートアップやVCについて語っていただいた。

(講師)
・プライマルキャピタル 代表パートナー 佐々木 浩史 

講師自己紹介

 東京での活動を基本とする佐々木さんは化学品メーカーで2年勤務したのち、2012年7月にインキュベイトファンドに参画。2014年2月に独立し、プライマルキャピタルを設立した。2018年にはJapan Venture Awardを受賞。投資先は国内はもちろん、海外にわたり広く活動されている。

アイデアの見つけ方

 アイデアの見つけ方を2つの大きな分類に分けた。
 まず1つ目、「起業家タイプの大別」。これに関して、以下の通り4つの型を挙げる。
① マーケット型
「このタイプは売り上げをしっかり作っていく、商売人タイプの起業家です。マーケットを分解し、最適なビジネスモデルを考えることによって、アイデアを見つけていきます。」
② ビジョン型
「社会をこうしたい!と言う絵を描き、そこに周りの人を巻き込んでいくようなタイプです。このタイプの起業家は、自分が持っている世界観に対してプロダクトやサービスを提供していきます。」
③ プロダクト型
「より良いものを作ることによってユーザーを獲得するタイプです。エンジニアリングやデザインに重きを置いて、アイデアを出していきます。」
④ テクノロジー型
「持っている技術やアイデアをどのように社会実装していくのかを考える起業家です。このタイプは、もともとビジョン型の起業家が持っていたテクノロジーをうまく活用していくことも多いですね。」

起業家をこのように分類し、
「個々人が起業家としてパーソナリティーが違うので、タイプ別に事業の探し方や、チームの作り方も変わってきます。自分が起業を考えた際にどのようなパターンが多かったのか、を思い出してみると、自分のタイプが見え、アイデアを見つけることに繋がってきますよ。
と、アドバイスした。

 

 次に2つ目、「起業アイデアの見つけ方パターンの大別」として5つのパターンがあると語る。
① 原体験
「原体験から掘り下げるパターンです。自身の原体験から、課題や業界の負を見つけ、経験値による深いインサイトをベースに事業を立ち上げていきます。」
② リサーチ
「先行している海外事例のローカライズをするパターンです。海外のビジネスモデルを日本に普及するためにはどうしたら良いかを考えます。」
③ マクロトレンド
「近年で言えば、スマホシフトのような、大きな社会のうねりを契機と捉え、既存のビジネスを守ろうとしている大企業に勝機を見出すパターンです。マクロトレンドに対して乗り遅れている企業とのギャップを狙い、事業を考えていきます。」
④ フラストレーションや身近な話題
「起業家は内的な熱量やモチベーションがとても高い方が多い。そういった方達が、フラストレーションであったり、日々起こっている身近な課題を解決しようと事業を作っていくパターンです。」
⑤ 伸びている起業仲間 / コミュニティーからのインスピレーション
「こんな事業、面白いらしいよ、伸びているらしいよ、といった起業仲間やコミュニティーの話からインスピレーションを受けて事業を作っていくパターンです。この場合、質の良い情報を常に仕入れていくことが大事ですね。」

 VCとして個人的に注目しているタイプとして、
「僕は、原体験やフラストレーションから起業家の内的な動機があった上で、それを達成するためにトレンドをどう活かすのか、海外はどうしているのか、を考えることが多いです。しかし、若手起業家の中には、経験が足りず、社会をどうするかリアリティを持って考えづらい方もいらっしゃると思います。その場合、仲間やコミュニティからのインスピレーションをしっかり受けているかどうかは大事ですね。」
と、語った。

〇 事業についてVCが見ているポイント

 前提として、「VCが投資するフェーズによる」とした上で、3つの項目と、その他の4つに分類した。
「最初は欠けていても良いけれど、経営をしていく中で意識をしていかなければならないポイントです。」
① マーケット
「そのスタートアップがやろうとしているマーケットが縮小しているのか成長しているのか、また、その波に乗れるのかどうか、競合の状況、リプレイスできるか等、を見ています。そのため、市場規模の分解、マーケットの分析は必ず行うべきだと思います。」
② ポジショニング
「優秀なエンジニアがいたり、データベースや実績の有無による競争優位性や成長率の期待値、業界人とのアライアンスはポイントになってきますね。これらがあることにより、スタートアップのゴールが達成できる事業ストーリーなのかを見ています。」
③ ビジネスモデル
「そのマーケットや事業構造が何年続くのかをVCは見ています。そのため、粗利率が良くなることが見込めそうか、というような収益構造、都度の売り上げなのかリカーリングなのか、という継続性は重要です。」
④ その他
特に重要な考え方として、Founder/Market Fitという言葉を紹介した。
スタートアップには、その創業者・チームがその市場に取り組む際のフィット感が重要です。そのため、その市場に対して深い知識を持っているかどうかが問われてきます。なぜフィット感が重要なのかと言うと、スタートアップのトップはオーナー社長になっていることが多く、社長は製品と一体化してスポークスマンにならなくてはいけないケースがあるため、市場とのシンクロ率は非常に重要なポイントになって来るのです。」

〇 投資先事例

プライマルキャピタルが投資している先の企業をいくつか例に挙げ、どのように着想を得て、どのように困難を乗り越えてきたのかを具体的に語った。


① 株式会社FABRIC TOKYO(オーダーメイドビジネスウェア)
・着想の経緯
「起業家である森雄一郎氏が高身長かつ、細身の体型であったため、既製品とのアンマッチに悩んでいたこと、お洒落したくてもブランド品は高価で手が出しにくいことなどから、オンデマンドでパーソナルスーツやシャツを作れば良いのではないか、と着想を得ました。体型のことなどはまさに、起業家だけが知っている隠れた真実だと言えるかもしれません。当時、スタートアップ界隈では3Dプリンターやオンデマンドデリバリーがトレンドで、オンデマンドでの物づくりが話題になりましたね。」
・初期の顧客獲得
「スタートアップは小さな意思から始まるものです。そのため、その意思がマーケットや顧客に伝わっていないケースの方が多く、ユーザーが増えづらいのです。この会社の場合、初めにWebマーケティングをしたものの、上手く集客ができなかったため、スーツやシャツなどを作っている企業に直接赴き出張採寸を実施したり、ポップストアを展開し、徐々に顧客を獲得していきました。」
・立ち上げエピソード
「社長はアパレル製作が未経験であったこともあり、品質管理に苦心しました。また、初期、そこまで売り上げが出ていない状態での工場開拓や材料調達に悩まされました。他にもクレーム対応に追われたりなど、最初の2、3年は非常に苦労しました。ですが、やるべきことを初めにしっかり決めていれば、なりふり構わず進んで行けるし、外から仲間も集まって来る、と言うことがわかる良い例だと思います。」

② Gatebox株式会社(バーチャルホームロボット)
・着想の経緯
「IoTと関連した事業を考えたい、ということで事業ディスカッションを始めました。当時、家電のIoT化が今後どんどん発達していくであろうことは、容易に想像できました。しかし、果たして人間は全ての家電を、例えばスマホのような機械1つで操作するだろうか、と考えたときに、そんな面倒なことはしないだろう、と言う結論に。それを打破すべくヒントにした海外の新技術がスマートスピーカーでした。スピーカーに話しかけるだけでは情緒がないので、初音ミクのバーチャルライブを参考に、ホログラムキャラクターを手元に持って来る事で人に話しかけるかのように接せるのでは、と着想を得ました。」
・初期の顧客獲得
「BtoCのサービスかつ、コストのかかるサービスだったため、とにかくビデオマーケティングを行い、コンセプトを語りました。ターゲットは狭くても良いから、一部の人にだけでもしっかりと届くように尽力しましたね。ビデオがある程度話題になった後、体験会を実施し、自社で予約販売を行うことによって顧客を獲得しました。」
・立ち上げエピソード
「技術範囲がかなり広かったため、その分野のスペシャリストを集めると莫大なコストがかかってしまい、資金面・組織面でかなりハードな挑戦になってしまったと思います。」

③ 株式会社フォトラクション(建築・土木の生産支援クラウド)
・着想の経緯 / 初期の顧客獲得
「社長がゼネコンで働いていた当時、ソフトウェアの導入をした際に、建設業はデータも少なく、システマチックではないことに課題を感じ、サービスの着想を得たそうです。社長と共同創業者がエンジニアだったこともあり、営業に関しては難しい部分も多く、プレリリースによるインバウンドマーケティング等で徐々に顧客を獲得していきました。」
・立ち上げエピソード
「バーティカルSaaSが一般的になる前から、社長の思いやマーケットの広さ、業界課題の多さによって、サービスが受け入れられると確信を持ち、社長がまだゼネコンに在籍している時に起業を提案しました。彼は大きな会社を辞めてでも、全ての建築業界を良くしたい、という思いで起業してくれたので、僕の中でとても思い入れの強い会社のひとつです。」

約1時間半にわたって行われた今回のイベント。

本セミナーのまとめとして、

「結局は、起業家の心の声・信念に忠実に、やりたいことに全身全霊で取り組めば良いんじゃないか、と思います。全身全霊で取り組めば、お金も稼げるし、人の心も動かせるし、社会にも良い影響を与えられるし、自分自身もやりがいを感じることが出来ますからね。」
と締め括った。

 

京都知恵産業創造の森スタートアップ推進部では、京都のスタートアップエコシステムの普及を主なミッションとしている。しかし、京都ではスタートアップの情報に生で触れる機会は、残念ながら今のところそこまで多いとは言えない。このセミナーを通して、起業や事業展開の参考にしていただけると幸いだ。

(レポート作成:澤村 花霞)

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