イベントレポート
Kyoto Startup Monthly Discussion #02レポート(2021/7/21開催)
「Kyoto Startup Monthly Discussion」は、京都から若い世代の起業家を創出するため、京都で活躍する先輩起業家とのパネルディスカッションや交流を通して、起業に対するハードルを下げ、京都から起業しやすい世の中をつくっていくことをミッションとしているイベントです。
今回は「超高速の品種改良×スマート養殖の最前線」をテーマに、リージョナルフィッシュ株式会社(以下リージョナルフィッシュ)CEOの梅川忠典さんをゲストに迎え、モデレーターの桺本さんを通じてお話をお伺いしました。
※リージョナルフィッシュ株式会社 CEO 梅川忠典さん
京大発スタートアップのリージョナルフィッシュは、京都大学・近畿大学の研究成果を基に誕生したベンチャー企業で、世界のタンパク質不足を救い、日本の水産業・地域経済を強くすることを目標に、ゲノム編集を用いた水産物の新品種の量産に取り組まれています。リージョナルフィッシュが行う欠失型ゲノム編集とは、従来の品種改良法を安全かつ、効率化した技術。この、世界最高水準の技術で産まれた新品種を養殖業者に買い取ってもらうと同時に、水産養殖事業者の後継者不足解消のため養殖技術のスマート化、いわゆるスマート養殖を行い、次世代の水産養殖システムを作ることに取組まれています。
桺本さん:起業したきっかけはなんですか?
梅川さん:話せば少し長くなるのですが、私は大学時代、経済学・経営学を専攻しておりました。当時、日本の会社は技術力で勝ち、経営で負けていると言われており、私はそんな日本経済を経営の面から支えて貢献したいと考え、経営コンサルタントになりました。しかし経営コンサルタントは、自分の立てた経営戦略が成功したかどうかの結末を見ることはできません。もっと具体的に経営に携わるため、私は会社に投資し、立て直して売却するファンドのようなことをしたいと思い、投資ファンドに転職しました。そこでは企業価値の算定にあたり、企業を査定する中で、日本を代表する企業を対象に、海外の企業と技術比較をすると、技術面でも海外に劣っていることがわかったのです。そこで私は、『技術でそもそも劣っているのなら、経営での支援は効果が薄い。だったら、今ある高度な技術を基に、起業してお金を稼ぎ、次なる技術に投資することができれば、世界で戦う会社ができるのではないか、この国の経済のためになるのではないか。』と考え、起業することにしました。ただ、自分には技術者ではないので京大に頼ったところ、魚のゲノム編集において第一人者の木下先生に出会い、水産業の衰退や地方経済の衰退に関するお考えを持っておられましたので、意気投合し、リージョナルフィッシュを起業することとなりました。
桺本さん:リージョナルフィッシュは2019年創業とは思えないスピード感で成長されていますよね。なぜそこまでスピード感のある成長ができているのですか?
梅川さん:VCから出資を受けていることは大きいですね。VCと5年後には必ず上場することを約束しているのもあって、すごく研究開発のスピードが上がっています。また、京大・近大のラボから学生を引き抜いているため、初速が他のスタートアップよりは早いです。
桺本さん:そうなんですね。僕も大学発ベンチャーで、こんなに初速が早いところは見たことがありませんでした。
桺本さん:大学発ベンチャーだからこその危機感など、あったりしますか?
梅川さん:僕みたいな、専業の経営者がいることは大事だと思います。例えば、大学関係者が経営をしていたとすると、最悪大学の仕事だけでも生活するお金は稼げてしまうので、危機感が薄れてしまいます。私はここで絶対成功しなければいけない、という精神を持ってやっていますね。
※左:モデレーターの桺本頌大さん
桺本さん:リージョナルフィッシュの魚はいつ頃食べられますか?
梅川さん:年内には市場に出せると思います。現在、トラフグとマダイは量産できており、さらに他の品種も同時開発していて、現在約20品種ほど開発しています。
桺本さん:他大学との連携ではどのようなことをされていますか?
梅川さん:大学は基本、ゲノム編集の研究に携わってもらっています。世界と比べて日本のゲノム編集研究はそこまで進んでいるわけではない。水産物ゲノム編集の研究者が個別に起業するのは、この国全体を考えると無駄が多くなるので、うちで一緒にやりましょう、ということで声をかけ、共同開発しています。
桺本さん:スマート養殖に関して、様々な企業と関わることによって、IOTなどのご支援を受けておられるのですか?
梅川さん:はい、そうです。遺伝子的に強い品種を作る、そしてそれを最高のパフォーマンスが出せるような環境で育てることが必要です。品種を作るのは大量生産が比較的容易ですので将来、急速な利益成長が見込めますが、スマート養殖機器を作るとなると、大規模な工場が必要となるなど、徐々に利益成長していく形となります。そのため、大企業に向いているビジネスだと言えます。なので、スマート養殖の部分は大企業にお任せして、我々は品種を作っていく、というコラボレーションができればな、と考えています。
桺本さん:リージョナルフィッシュはどのような形でマネタイズしているのですか?
梅川さん:今後、魚を売っていくことによってマネタイズする予定です。日本の水産業の発展を目指しているため、水産養殖事業者とコラボレーションしたいなと思っています。
桺本さん:ゲノム編集できない魚もいたりしますか?
梅川さん:います。できるかどうかは完全養殖できるかが鍵になっていまして、日本が水産のゲノム編集で勝てる理由のひとつです。世界で一番完全養殖技術を有しているのは日本の近大です。そのため、近大との共同研究を通じて、ゲノム編集できる品種を増やすことができています。今後、リージョナルフィッシュの魚が市場に出れば、世界で初めてのバイオテクノロジーで作られた魚となると思います。
桺本さん:それなら本当に水産の世界では最先端の技術、ということになるんですね。
約一時間にわたって行われた今回のイベント。会場は多くの参加者で賑わいました。
日本の水産業界に革命を起こすリージョナルフィッシュのゲノム編集とスマート養殖。会社の利益だけでなく、日本の将来をも考えたこのスタートアップは、今後も大きく成長していくことでしょう。大学や大手企業、事業者とのコラボレーションはとても画期的で、この閉鎖的なコロナ禍であっても、社会の繋がりの大切さを実感することができます。リージョナルフィッシュの魚が食べられる日が楽しみですね。
(レポート作成:澤村 花霞)