イベントレポート
Kyoto Startup Monthly Discussion #05レポート(2021/10/20開催)
Kyoto Startup Monthly Discussionは、京都から若い世代の起業家を創出するため、京都で活躍する先輩起業家とのパネルディスカッションや交流を通して、起業に対するハードルを下げ、京都から起業しやすい世の中をつくっていくことをミッションとしているイベントです。
今回は「アートのサブスクがつくる未来とは」をテーマに、株式会社Casieの藤本翔さんをゲストに迎え、モデレーターの桺本さんを通じてお話をお伺いしました。
株式会社Casieは、平面絵画をサブスクリプションという新しいスタイルで、日本全国に届けるサービスを行っておられます。画家の父親を持つ藤本さんは、アーティストとして生きていく厳しさを、幼いながらに理解していたと言います。才能はあっても作品流通の機会に恵まれない、そんなアーティスト達のために何かできることはないか、と藤本さんは考えたそうです。国内には約80万人ものアーティストがいますが、創作活動のみで生活できているのは、その中のたった7%。そこには絵画を購入することに値段や、敷居の高さから、絵画作品を鑑賞対象ではなく購入対象だと考える難しさという問題があります。それを解決するのに利用するのがサブスクリプションというサービス。作品をインテリアとして自由にレンタル・交換でき、予算の心配もせず、さらにアートの基本も学べるサブスクならではのサービスは、SNSを中心に口コミで広がり、多くのユーザーに利用されています。
桺本さん:起業のきっかけはなんですか?
藤本さん:僕は小学五年生の時に父を亡くしました。当時父は34歳でした。アーティストとしても、父親としてもまだまだやりたいことがあったんじゃないかと思います。僕はその時、自分の親以上生きるイメージが湧かなくて、34歳まで生きられないと思ったんです。自分が34歳になるのは2017年。僕は2017年を目標に努力しました。サラリーマンとして11年間働いていたのですが、その期間は共同経営者を探す旅でした。11年間で2社を経験し、現在の共同経営者と出会い、34歳になったので起業しました。
桺本さん:起業当初からサブスクをやろうと考えていたのですか?
藤本さん:サラリーマン時代、戦略コンサル系の会社に9年間勤めていたのですが、その時お手伝いさせて頂いた企業にレンタル会社さんが多かったんです。それがきっかけでレンタルという仕組みに興味を持ちました。なので、起業した時、アート×レンタルという事業イメージは、かなりできていましたね。
桺本さん:作品は新しいアーティストから既存のアーティストの作品までずっと追加されているのですか?
藤本さん:作品はどんどん増えていて、昨年の今頃が約2800作品だったのに対して、今は13000作品ほどあります。既存のアーティストさんが最初、お試しで預けてくださった作品が2週間も待たずして全てレンタルされると、徐々に新しい作品を追加してくださいます。また、TwitterやInstagramでアーティストさんがCasieを利用すると見える世界が変わる、と話題にしてくださり、『Casieの向こう側』というワードが誕生するまでに口コミが発展しました。Casieを利用すると、作品が様々な人との繋がりを作っていきます。報酬はもちろんのこと、フォロワーも増える。それが『Casieの向こう側』です。ユーザーグロースもアーティストグロースも全て口コミですね。
桺本さん:営業などはしておられますか?
藤本さん:創業してすぐの頃は、朝から晩まで個展やグループ展をまわっていました。パワーポイントで作ったチラシを見せて、現地で営業していましたね。
桺本さん:顧客が一気に増えたきっかけなどはありますか?
藤本さん:正直なところ、僕らは未だにすごい急成長をしたことがないんです。急成長を目指して努力をしてはいるもののなかなかできないですね。先月対比130%成長を30カ月続けているような感じです。
桺本さん:継続的な成長もなかなかできることではないですよね。すごいです。
※右側:株式会社Casie 藤本 翔さん
左側:モデレーター 桺本 頌大さん
桺本さん:作品が購入されることはありますか?
藤本さん:ご購入されるユーザーさんは会員登録をすると手に入るマイページから、『今飾っている作品の購入を相談する』というボタンから購入することができます。色々なジャンルの作品をレンタルしているうちに、好きなアーティストを見つけることができるのは、サブスクならではだと思います。そのアーティストの作品をさらに色々レンタルしていくうちに自分のものにしたい作品と出会い、購入に至る方が多いですね。
桺本さん:アートのハードルが下がるサービスですね。
藤本さん:そうですね。僕らは絵画に対して芸術ではなく、インテリアのフレーバーを出しています。だからアクセスしやすい、というのはありますね。しかし、梱包から全て、作品の扱いは非常に丁寧に行っています。なので、作品が家に届いた瞬間、インテリアが芸術のフレーバーに置き代わり、体験価値がとても上がるんです。
桺本さん:絵画を購入することに対してのハードルはなぜ高いと思いますか?
藤本さん:一番の理由は、どうやって購入すればいいのかわからないことです。やはり、現物を見ずに作品を買うことはかなり勇気がいることだと思います。僕は家でセルフ展覧会ができたらいいな、と考えていたんです。たくさんの作品を家に並べてもそこまで高額ではないサービスを提供して、少しでも絵画購入へのハードルを下げれたらな、と思います。
桺本さん:絵画を預かるのはとてもハイリスクなことだと思うのですが、それでもなぜ預かろうと思ったのですか?
藤本さん:ビジネスを始めるにあたって、テストなどはしていません。僕の中で何かを始める、ということは辞めないということです。リスクしかないことでも、リスクと考えていません。なぜなら、失敗しても辞めないからです。サブスクは交換する楽しみを量で解決するサービスです。僕たちが現物を見ていないとレコメンドできません。創業融資はほとんど倉庫づくりに投資しましたし、ユーザー開拓はしていませんね。
桺本さん:それぐらいの意気込みがないと、ここまで会社を成長させることはできない、ということですね。
約一時間にわたって行われた今回のイベント。
絵画作品をインテリアとしてお手軽に家に置き、鑑賞することができるなんて夢のようなサービスだと思います。また、多くのユーザーの手元に自身の作品が届き、見て楽しんでもらえるなんて、アーティストとしても至上の喜びであると言えるでしょう。
アートが身近になる世の中もすぐそこまで来ているのかもしれません。
(レポート作成:澤村 花霞)