イベントレポート
Kyoto Startup Monthly Discussion #06レポート(2021/11/17開催)
Kyoto Startup Monthly Discussionは、京都から若い世代の起業家を創出するため、京都で活躍する先輩起業家とのパネルディスカッションや交流を通して、起業に対するハードルを下げ、京都から起業しやすい世の中をつくっていくことをミッションとしているイベントです。
今回は「京都発グローバルスタートアップを目指すmui Labの挑戦」をテーマに、mui Lab株式会社の廣部延安さんをゲストに迎え、モデレーターの桺本さんを通じてお話をお伺いしました。
mui Lab株式会社は、世界中の誰とでも瞬時に連絡が取れるようになった現代の情報社会が便利な一方で、コンピュータが取り扱う情報が適切に人へフィードバックされていないのでは、ということを課題と捉え、Calm Technology & Designをコンセプトにデジタル情報との新しい関係性をデザインの観点から考えておられるテクノロジーデザインスタートアップです。中でも代表的な製品である、「muiボード」は最先端のテクノロジーが使われたIoT機器であるにも関わらず、まるで家具のように、日常に馴染むあたたかな木の温もりに触れながら、情報に晒されることなく人とのコミュニケーションが取れるプロダクトです。
桺本さん:muiボードとは?
廣部さん:一見、ただの木のパネルのようなものの中にCPUや表示装置などが入っており、構成としてはタブレットやコンピュータと同じです。見た目は家具に近く、家の中で馴染むようデザインされており、使っていないときはプロダクトそのものが家に馴染んで消え、形ではなくサービスだけが残るよう設計されています。機能としてはネットワークに接続されている機器のコントロールやネット上でのコミュニケーション、メモやスケジュール機能などが使用できます。
桺本さん:muiボードに他の種類はありますか?
廣部さん:最初のモデルとして横長のmuiボードを製作しました。その他に『柱の記憶』と読んでいるコンセプトを具体化したものがありまして、これはペンタブレットなどを製作されている「ワコム」さんとデジタルペンを使って家庭の中で使えるプロダクトを考えたときに生まれました。これを基に、2019年のミラノサローネというイタリアのミラノで開催されるデザインの祭典でこのコンセプトを発表する際に、子どもの身長を柱に刻みつけていく、という古い習慣をデジタルで置き換え、誕生したのが縦型の『柱の記憶』になります。
桺本さん:起業の経緯はなんですか?
廣部さん:元はNISSHAのプロジェクトとして、住設関係のプロダクトを作るところから始まりました。最初は印刷技術とタッチパネルを使ったプロトタイプを作り、それをニューヨークの展示会に出展したところ建築部門で賞をいただき、事業化できないか、という話になったんです。それをきっかけに2017年に子会社化し、20219年に会社をMBO(Management Buyout)し、我々主体の会社になりました。
桺本さん:いつ頃から木製の製品を作っていたのですか?
廣部さん:室内空間でプロダクトの存在感がないものを作れたらな、というところから始まり、木はもちろん布や金属、ガラスなどでプロトタイプを製作しました。それらを展示会に出展すると来場される方の多くが木に魅力を感じ、興味を持ってくださいまして、だったらまずは木でやってみようという話になったんです。
桺本さん:木製のデバイス、という点で世界的に見たときに類似したプロダクトはありますか?
廣部さん:NISSHAにいた時に車の内装のデコレーションパネルに本物や印刷の木を使った内装材は見たことがありますね。車のインテリアでも木を使って心地の良い空間を作ろうとしているのを見ると、人間の身近に違和感なく木は存在しているんだな、と感じます。
※右側:mui Lab株式会社 廣部 延安さん
左側:モデレーター 桺本 頌大さん
桺本さん:京都で事業をやっていてよかったな、と思うことはありますか?
廣部さん:会社の周りにはまだ古い町屋が残っていまして、お店のショーウィンドウなんかに季節のお花が生けられていたりするんです。そういった文化や町並みがまだ残っているのを見ると、NISSHA時代にヨーロッパに出張した際、古い街並みが綺麗にメンテナンスされて残っていたのを思い出します。僕はそういった京都の風景に非常にインスピレーションを受けますね。また、地元の商店街とのコラボレーション企画もあったりして、地域と関わることができてきたのも、京都でよかったなと思います。
桺本さん:最初から会社のグローバル展開は視野に入れていましたか?
廣部さん:そうですね、最初から考えていました。NISSHAにいた経験が大きくて、当時は海外での仕事が多かったんです。最初、CEOの大木がボストン、私が京都にいる状態で事業を始めました。私が出張した際にニューヨークで落ち合い、現地のホテルなどを巡り、こういった場所で使ってもらえる製品を作れないかとディスカッションを重ねていましたね。北米市場でのホテル事業などでパネル型のデバイスがうまくマッチするんじゃないか、という見立てのもと進めていたのですが、ホテルの建築計画というのは何年も前から計画されているもので、ホテルの完成を待っていると事業が成り立たず、結局ホテルでの事業展開は断念することになりました。
桺本さん:国内と国外の売上比率はどのくらいですか?
廣部さん:「ワコム」さん以外には、国内の仕事はしていませんでしたが、昨年、コロナで海外に行けなくなり、大半が国内の仕事ですね。来年は年明けのCESを皮切りにプロモーションしていくので増えていく見込みです。
桺本さん:muiは誰でも購入できるものですか?
廣部さん:今は個人向けには販売しておらず、企業向けのみの販売となっています。企業様にはどんどん使っていただいて、この製品がどういったものなのかを知ってもらい、新しい使い方を提案していただければな、と思っています。
桺本さん:個人向けの販売もいつかはされる予定なのですか?
廣部さん:ゆくゆくは販売していきたいと思っています。現在注力している対ビジネス向けは、課題解決やブランド向上などの目的で、コンサルティングのプロセスを含めてデザインと開発を行なっています。それらの知見を積み重ねて、多くの人にとって豊かな暮らしをもたらす製品を提供できたら嬉しいですね。
桺本さん:muiはこれからどう展開されていくのですか?
廣部さん:家をプロダクトして作っておりまして、その中に柱を置こうと思っています。そこにどんどん家族の記憶としてデータを貯めていき、数年後、忘れた頃にふと柱を見るとかつて家族が書いたメッセージが浮かび上がる、予期せぬ形でそれらが出てくる仕組みを作ろうと思っています。それを見た時、人はどのような感情を抱くのだろうか、前向きな気持ちになれると良いなと思い、このような日常生活の中にテクノロジーを活用していきたいですね。
約一時間にわたって行われた今回のイベント。
誰もがスマートフォンやパソコンを持ち、オンライン上で連絡を取るのが日常になった今、1日を振り返ってみると、人の顔を見ている時間より画面を見ている時間の方が圧倒的に多いのかもしれません。
現代の情報社会を否定するのではなくそれを活用し、新たなコミュニケーションの一つとして日常に溶け込むmuiが、私たちの新たな生活の一部になる日もそう遠くないのかもしれませんね。
(レポート作成:澤村 花霞)