EVENT REPORTイベントレポート

Kyoto Startup Monthly Discussion #07レポート(2021/12/22開催)

Kyoto Startup Monthly Discussionは、京都から若い世代の起業家を創出するため、京都で活躍する先輩起業家とのパネルディスカッションや交流を通して、起業に対するハードルを下げ、京都から起業しやすい世の中をつくっていくことをミッションとしているイベントです。
今回は「京大発スタートアップ ヘルスケア×AIで実現する医師の働き方改革」をテーマに、エニシア株式会社の小東茂夫さんをゲストに迎え、モデレーターの桺本さんを通じてお話をお伺いしました。

エニシア株式会社はカルテ要約システム、「SATOMI」を開発しておられる、京大発スタートアップです。難病等で病院を点々とせざるを得ない時に、カルテから省略されてしまった情報のために診療経緯が患者自身もよく分からなくなってしまうこと、医師が苦労していることの多くは診断書やカルテの作成であることを課題と考え、カルテが書かれたタイミングで要約データと構造化データを作成するソフトウェアを開発されました。既存の電子カルテに併存して要約案を自動生成し、診療収入と医療の質の向上化、残業時間・採用コスト削減等の効果を得ることができます。また、非構造化データを正規化し、それを更に構造化することにより症例データが格段に扱いやすくなり、医療のビッグデータへ繋がります。

桺本さん:エニシア株式会社にたどり着くまでの経緯は?
小東さん:僕はたくさん転職していまして、話すと少し長くなります。
大学医学部を卒業した後、金融に興味を持ち銀行に就職しました。そこで約一年半勤めた後退職し、会計士の学校に半年ほど勤め、会計コンサルタントの会社に転職しました。コンサル会社は先方の課題をベースにプロジェクトに取り組めるので面白いな、と思っていたのですが、しばらく働いているうちに会計系の課題は、事業内容によらずどれも似通っていることに気付いてしまい、自分がやりたいことを改めて見つめ直すことに。その結果、面白いことをしながらも生活できる仕事がしたいと思い、コンサル関係の個人事業主になったのですが、充実しているのかどうかわからない期間を過ごしてしまいました。このままではいけない、と結婚を機に京都に引っ越したのですが、リーマンショックにより仕事が激減。会計コンサル時代の人たちが監査法人のコンサル部門に移っていたので自分も雇っていただきました。しばらくそこで働かせてもらった後、京都市役所の中途採用に応募し、産業振興系のお仕事をすることになりました。その時の職場だったKRPには沢山のベンチャー企業の方がいらっしゃったり、産業支援機関があって、スタートアップのお話をお聞きする機会も多く、そこから徐々にスタートアップというものに興味を持ち始めました。当時、KRPに京大のデザインスクールがあったんです。そこがとても魅力的で、どんどん引き込まれてしまって、会社を退職し大学に入学しました。そのデザインスクールで知り合った情報学の方々と起業し、今に至ります。

桺本さん:かなり紆余曲折あったんですね。最後に医療系にたどり着いたのが不思議に感じてしまうのですが、会計系のスタートアップは考えなかったのですか?
小東さん:職は転々としていましたが、僕の親はずっと重い病気を抱えていました。兄弟と交代で関東の病院に連れて行っては様々な治療法を試していたので、原体験の観点から言うと、医学が一番僕の中で関心が高かったんです。

※右側:エニシア株式会社 小東 茂夫さん
 左側:モデレーター 桺本 頌大さん

桺本さん:始まりは京都大学のアクセラレータープログラムからですか?
小東さん:そうですね、直接的にはHiDEPという医療ヘルスケア・イノベーション起業家人材育成プログラムというものから、医療従事者のニーズの中で情報系にトライした、という形になります。ただ、HiDEP以外からも起業を支援するようなお話があったり、僕が在学中に所属していたところからもスタートアップを後押ししてくれるような先生やプログラムがありまして、そこでもお世話になり、周りの方々から刺激をもらいました。
桺本さん:こういったイベントを通じて色々な方にお話をお聞きしていると、小東さんのように起業を促進するようなプログラムに参加して起業された方も本当に多いな、と改めて感じますね。
小東さん:やっぱりああいった後押しがないと、面白いことがしたい!と思っていても『本当にできるのかな』という不安の方が大きくなってしまい、リスクに敏感になってしまうと思います。色々な方に後押ししてもらえたのは本当にありがたかったですね。

桺本さん:構造化をする、ということがエニシア株式会社の強みであると思うのですが、それはどう実現されたのですか?
小東さん:先生によってカルテの書き方は様々ですが、自動言語処理に関して、ここ近年かなり技術が伸びてきていまして、周りの文章との関係性からそれが何を意味するのか、などの推定が、かなり忠実にできるようになってきています。医療情報はかなりセンシティブな内容のため、病院の外に出ることは基本的に無く、なかなかデータ量が集まりません。そこを開発陣が苦労しながらも上手くやってくれています。

桺本さん:具体的にはどういう風にデータを集めておられるのですか?
小東さん:カルテの要約を自動生成してほしい、というニーズを公開されていたドクターがいらっしゃいまして、その方は自分たちでカルテを書いた後、1回ごとに要約を残す、という珍しいことをされていました。ドクターは皆、カルテ記事を書くだけで精一杯で、要約をまとめるのは必要に応じてやればいい、というのが医療業界の基本的な流れでしたから驚きました。ニーズと最初の供出いただいたデータを持っていらっしゃった方が同一人物であったことがデータ収集のきっかけとしてすごく大きいですね。

桺本さん:このテクノロジーを他の分野に活用するような構想はありますか?
小東さん:今はまだ泌尿器科でしか活用できていないので、まずは他の診療科に展開していきたいと考えています。ビジネス的に持っている技術をどう転用していくのか、というのは考えておかなくてはいけないな、と思ってはいるのですが、先ほどお話ししたニーズを初めに出してくれたドクターに喜んでほしい、という気持ちがすごく強くて、モチベーションの大半がそこにあるので、開発陣のその気持ちを蔑ろにしたくはないですね。

桺本さん:京都でスタートアップをして良かったと感じることはなんですか?
小東さん:京都でスタートアップをされている方々の切り口や考え方の柱などがとても面白く、しっかりとされているように感じます。関東のほうに行くと、方法論は沢山あるけれど、事業アイデアは京都の方が変わっていて面白いですね。
桺本さん:京都はディープテックが強いので変わったものが多い、というのと、長く事業を続けることを良しとする文化があって、ゆっくりスケールさせて行くのが許される土壌だと感じておられる起業家の方は多いようですね。

1時間にわたって行われた今回のイベント。
このご時世で特に、ニュース等で医療現場のひっ迫、という言葉はよく耳にします。
SATOMI」がそんな医療現場の救いになれば、それほど素晴らしいことはないでしょう。
多くの医療従事者の方が、幸せに働ける勤務環境が整う日が早く来ることを切に願います。

(レポート作成:澤村 花霞)

PAGE TOP