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Kyoto Startup Monthly Discussion #11レポート(2022/4/20開催)

Kyoto Startup Monthly Discussionは、京都から若い世代の起業家を創出するため、京都で活躍する先輩起業家とのパネルディスカッションや交流を通して、起業に対するハードルを下げ、京都発の起業家や新たなビジネスの種を発信していくことをミッションとしたイベントです。                  今回は「生態系サービスに最大限の価値創造を追求することで世界に理想の社会を追求」をテーマに、株式会社RE-SOCIAL CEOの笠井大輝さんをゲストに迎え、モデレーターの桺本さんを通じてお話をお伺いしました。

株式会社RE-SOCIALは、生態系サービスに最大限の価値創造を追求することをコンセプトに、笠井さんが大学4年生の時に京都の笠置町にて起業したベンチャーです。主な事業は鹿を使った加工事業で、ジビエ事業はもちろん、ペットフードやレザー製品の開発も手掛けています。大学時代、ソーシャルビジネスを通じて社会課題を解決する方法を研究していた笠井さんは、数多くの社会問題の中から特に獣害被害に着目し、獣害被害をもたらし駆除された野生動物の約9割が山奥で埋設焼却処分されているだけ…という現状を、なんとか解決出来ないかと考えました。生態系に影響を与えない程度にジビエを流通させ、獣害被害を減らしつつ地域産業の活性化やブランドの創出、さらには世界の畜産業界へ向けての問題提起を積極的に行っています。

桺本さん:起業のきっかけはなんですか?                                                     
笠井さん:狩猟されている鹿の実態を知ったのが大学3年生の時で、当時は進路に悩んでいる時期でもありました。大学での学びは社会課題に対して、『こういうビジネスがあれば課題解決ができる』という提案だけに過ぎません。本当にそれを解決するためには、その提案を実装していく人が必要なんです。そんなことを考えている時に、埋設焼却処分の現場を見て、“起業したい”ではなく、“しなくてはいけない”と感じました。この問題を目の当たりにしてなお、一般企業に就職するのか、と自分の人間性を問われているような気がしたんです。

桺本さん:どうして笠置町で起業されたのですか?                                                          笠井さん:様々な自治体にお話を伺いに行きました。その時に僕たちが重要視していたポイントは、その地域の獣害被害総額数。当時の笠置町にお話を伺ったところ、獣害被害はほとんどない、という資料を頂きました。そこで、どうやって被害を防いでいるのかを地域の農家の方にお聞きすると、被害も鹿の数もここ数年でかなり増えていることが分かったんです。どうして行政と民間の間にこういったギャップが生まれるのか疑問に思い調べてみると、獣害被害総額とは農業を生業とする方々の育てた農作物が被害を受けた総額のこと。つまり、笠置町では販売目的の畑をされている方が少ないため、被害がお金に換算されていなかったんです。僕は正直、この見えない被害に対して行政が補助をするのは厳しいな、と感じました。そこで、民間企業ならば何かできることがあるのでは、と笠置町での起業を決めたんです。

※右側:株式会社 RE-SOCIAL 笠井 大輝さん
    左側:モデレーター 桺本 頌大さん

桺本さん:起業までの道は困難でした
笠井
さん:当時は人口1200人程度だった笠置町では、僕たちはもはや外国人のような存在でした。まず、鹿を駆除するため猟師になろうと思い、笠置町の猟友会にご挨拶に伺ったものの門前払い。地域から歓迎はされませんでした。それでもあきらめず、毎日笠置町で活動していると、だんだん地域の方々の僕たちを見る目も変わっていきました。徐々に協力してくださる方も増えて、工場ができて実際に事業を開始する時には猟友会の方々も手伝いに来てくださり、今では毎日のように会社に来てくださっています。

桺本さん:工場を作るのも苦労されましたか                                                           笠井さん:そうですね、工場を建てる時は土地探しが大変でした。そもそも不動産会社が介入していないので、空いている土地が誰の土地なのかを自分たちで調べ、地主さんを探すのも一苦労。地元の方に聞き込みやっと見つけて、いざ建てようと思ったら近隣住民の方から反対される。このようなことが5回くらいありました。半年くらい土地を探していましたね。

桺本さん:笠置町以外での起業は考えましたか                                                   笠井さん:そういった議論をしたことはありますし、他の地域からのスカウトもあったりしました。しかし、ローカルビジネスをやるにあたって、地元住人の方々との関係性づくりにおける課題はどこの地域にいっても出てくるものです。笠置町でこの課題を乗り越えられなければ、どこへ行っても上手くいかないだろうと思い、笠置町で腹を括って活動していましたね。

桺本さん:資金はどのように工面されたのですか                                                  笠井さん:弊社は資本金500万円で設立した会社で、半分の250万円は自己資金、残りはローカルベンチャーキャピタルからの出資と、大学の教授からの出資、あとは全額融資です。

桺本さん:ベンチャーキャピタルからはアイデア段階で出資を受けられたんですか。                                       笠井さん:ビジネス面と社会的側面を評価していただき、会社すらまだ出来ていない段階で出資していただきました。
笠置町に初めて行ったの2019年の夏頃で、工場ができたのが2020年の10月。それまで無休で関係性づくりや土地探しに追われていました。工場がやっと出来て、本格的に事業を開始する時にはコロナが猛威を振るい、当初考えていたBtoBの卸売という部分が達成できず、ビジネスモデルすら白紙になってしまいました。そこからBtoCの商品開発に切り替え、家庭でいかにお手軽に美味しく鹿肉を食べられるのかを考えました。そうやって少しずつ売り上げを伸ばし、今となっては売り上げの9割がBtoCとなっています。

桺本さん:鹿肉って、どういった味なんですか                                                   笠井さん:鹿肉は精肉加工の技術が未発達だったゆえに臭みがある、というイメージがありますが、本来の味は臭みがとても少なく、淡白でとても柔らかくて美味しいです。今は多くの事業者さんが鹿肉を加工しておられるので、どこのお肉を買っても美味しく頂けます。世界的にはとてもポピュラーで、まだまだ伸び代のある食べ物だと思います。

桺本さん:鹿皮の加工はどうやって行われているのですか                                               笠井さん:鹿皮はすごく柔らかく丈夫なため、古くから日本ではよく使われてきた素材です。加工がしやすく何にでも使えます。鹿皮は家庭のミシンでも加工が可能なため、現在は自分たちで加工しているのですが、今後は地元の方々に在宅で出来るお仕事としてお願いしたいと考えています。

桺本さん:今後の展望を教えて下さい。                                                       笠井さん:笠置町から始まったこの事業ですが、どんどん周辺地域へ広げていきたいと考えています。同じ課題を抱えている地域にアプローチしていけたらなぁ、と。実際に今年から近隣4市町村で捕獲された鹿に関しても弊社で引き受けて加工しています。僕たちは自社で保有している鹿牧場のおかげで、生きたまま鹿を加工場まで運ぶことができ、運搬中に鹿肉を劣化させることがないため、事業の拡大が可能なんです。

1時間にわたって行われた今回のイベント。
問題を解決しようと、自ら行動することは簡単にはできない、勇気のある行動であると言えます。社会問題解決の行動の第一歩として、鹿肉を買って美味しく食べる、というのもいいかもしれませんね。

(レポート作成:澤村 花霞)

 

 

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