イベントレポート
Kyoto Startup Monthly Discussion #14レポート(2022/7/20開催)
Kyoto Startup Monthly Discussionは、京都から若い世代の起業家を創出するため、京都で活躍する先輩起業家とのパネルディスカッションや交流を通して、起業に対するハードルを下げ、京都発の起業家や新たなビジネスの種を発信していくことをミッションとしたイベントです。今回は「『ツーリストシップ』でみんなが心地よい観光地の空間を築く」をテーマに、一般社団法人CHIE-NO-WA代表理事の福田 千恵子さんをゲストに迎え、モデレーターの田中さんを通じてお話をお伺いしました。
一般社団法人CHIE-NO-WAは、「ツーリストシップ」を広めるため、活動されています。「ツーリストシップ」とはCHIE-NO-WAが考案した言葉で、住む人・訪れる人・働く人など、観光地に集う全ての人が意識したい心構えのことを指します。「光を観る」と書く観光。ツーリストシップを広げることで、人の振る舞いに磨きがかかり、地域の人や観光客などの観光地に集うすべての人がその光になることができるのではないか、と福田さんは考えています。
修学旅行の事前学習や旅行中の学習、啓発活動及びツーリストシップの証として、地域の工芸品を使用したお土産を作成するなど、多岐にわたってツーリストシップの普及のため、奮闘されています。
※左側:CHIE-NO-WA 福田 千恵子さん 右側:モデレーター 田中 優大さん
田中さん:起業のきっかけは?
福田さん:実は最初は起業しようとは考えていなくて。大学3年生の時に、『観光公害』という言葉を知って、とても衝撃を受けました。詳しく調べてみると、そこには住人と観光客のすれ違いが背景にあったんです。なんとかお互いに寄り添っていけないものかと考え、初めにそのきっかけとして、ツーリストシップの証であるブレスレットを作りました。 その時、発売するために法人コードが必要で、会社を作らなくてはいけなくなり、起業しました。
田中さん:観光公害とはなんですか?
福田さん:観光公害とは、観光客がたくさん訪れることにより、キャパシティオーバーを起こし、様々な問題が起こってしまうことです。
田中さん:観光公害は大きな社会課題の1つですが、なぜそこに自ら飛び込み、活動しようと思い立ったのですか?
福田さん:何か社会問題に取り組みたいと考えていた時に、まず自分が生活している京都において何かしたいと思ったのがきっかけです。また、『観光』という美しい言葉に『公害』という言葉がつくのに対する不信感も原動力です。
田中さん:コロナ禍で観光客が減ったことにより、何か影響はありましたか?
福田さん:やり切れていない事がたくさんあります。会社を立ち上げた半年後に緊急事態宣言が発令され、みんな家から出なくなりました。実質活動できたのが去年の11月くらいなので、まだ半年くらいしかまともに動けていない気がします。
田中さん:活動できなかった期間は何をされていましたか?
福田さん:勉強をしていました。コロナで観光産業が止まっている、というタイミングで、猶予期間をもらった、と考えまして、余裕のある事業者の方にお話を聞いたり、もっと自分の中で理念を固めていこう、という事で、心理学、経済学、歴史学等、様々な分野での観光について、インプットを重ねていました。
田中さん:CHIE-NO-WAは非営利団体ですが、スポンサーはどのように募られたのですか?
福田さん:まず、CHIE-NO-WAの収入の柱は3つありまして、1つ目はスポンサーさんや寄付、2つ目は修学旅行事業、3つ目が委託業務となっています。持続可能な観光を築くため、色々な取り組みがありますが、それにご一緒させていただく形で、たくさんのご縁を頂いています。
田中さん:今後のスケールの方向性や計画はありますか?
福田さん:自分の組織を大きくしよう、とは思っていなくて、ツーリストシップに共感してくださる企業さんにどんどん参加していただき、連携先を増やし、ツーリストシップをもっと広めていきたいと考えています。
田中さん:「ツーリストシップ」という言葉はどういった意図で作られたのですか?
福田さん:初めは寄り添いのきっかけが作りたくて、住人も観光客もみんなで寄り添っていこう、と訴え続けていたものの、なかなか伝わりませんでした。観光業の界隈にある『レスポンシブルツーリズム』という言葉を借りたりもしましたが、これは『責任ある観光』という意味で、少し重すぎます。もっと身近な言葉はないものか、と悩んでいたところ、周りの方からアドバイスをいただき、その中で最もフィットした言葉が『ツーリストシップ』でした。
田中さん:ツーリストシップを反映させていく中で、CHIE-NO-WAが思い描く未来像はどのような未来ですか?
福田さん:例えば、スポーツをする人に倫理観もモラルもなければただの恐怖ですよね。みんなスポーツマンシップにのっとって、ルールの中でスポーツをするからスポーツは成り立っています。それと同じで、旅行や観光には、行くことによって得られる人生のエッセンスがあります。それは、根底にツーリストシップがあるからこそ得られるのです。みんながツーリストシップを意識する事によって、もっと心豊かな、文化的にも社会的にも意味のある観光ができる未来が実現するのではないかな、と考えています。
田中さん:外国人観光客に対する国や言語を超えたツーリストシップの浸透は、どのように実現させていくのですか?
福田さん:今、外国語を使った対応の準備をしています。日本のことを海外へ発信されている団体さんとコラボをしたりしながら、日本のツーリストシップを広めるため活動しています。
田中さん:何か、手応えはありましたか?
福田さん:そうですね、海外の方とも打ち合わせをさせていただく中で、この言葉を褒めていただくことも多いです。ヨーロッパではサステナブルツーリズム(持続可能な観光)は浸透しているものの、一方で東南アジアには全然広まっていないので、そういったところを中心に広めていけたらな、と思います。また、日本人が海外に行った際のツーリストシップも必要です。国境関係なく広めていければいいですね。
田中さん:コロナが落ち着き、再度観光産業が盛り上がった時の展望はありますか?
福田さん:アフターコロナでどんな旅が流行るのか、どんな国の人が日本に訪れるのか、予想はある程度出てはいるものの、うちとしてはあまりそこに拘ってはいません。アニメツーリズムでも、ダークツーリズムでも、どんな旅でも共通してツーリストシップは必要です。変わらず考えを広めていけたら、と思います。
田中さん:京都でスタートアップをする利点は?
福田さん:東京都の比較、という点で言うと、京都はコミュニティの数が限られているため、知っている人が多く、安心感がある事が挙げられます。また、京都に住める、という点も大きな利点の1つですね。
田中さん:最後にこれから起業をしようと考えている方にメッセージを!
福田さん:とにかくやってみるべし!です。私も、いろんな方にお世話になって、たくさんの方に、たくさんのことを教えてもらって今があります。エネルギーを持ってさえいれば、やっていく中で周りのみんなが色々助けてくれるはずです。まずは行動してみる事が大切です。ぜひ、トライしてみてください。
約1時間にわたって行われた今回のイベント。
私自身、京都に住んでいる身として、一部のマナーを守らない観光客の方に困った事が多々あります。
「ツーリストシップ」この考え方は、観光地に住む人間として、一種の希望のように感じます。たくさんの方に浸透していって欲しいですね。
(レポート作成:澤村 花霞)