イベントレポート
Kyoto Startup Monthly Discussion #22レポート(2023/3/15開催)
Kyoto Startup Monthly Discussionは、京都から若い世代の起業家を創出するため、京都で活躍する先輩起業家とのパネルディスカッションや交流を通して、起業に対するハードルを下げ、京都発の起業家や新たなビジネスの種を発信していくことをミッションとしたイベントです。
今回は「森林の課題技術に挑む」をテーマに、DeepForest Technologies株式会社の代表取締役 大西信德さんをゲストに迎え、モデレーターの桺本さんを通じてお話をお伺いしました。
大西さんは、ドローンを使ったリモートセンシング技術と、新しく開発したディープラーニング機能を組み合わせることで、従来に比べて低コスト・短時間で、森林の木の種類や高さ、太さ等を識別・計測できる技術を開発。京都大学発のスタートアップとして、環境系VCから資金調達を受けるなど、SDGs時代にふさわしいソーシャル企業として注目を集めています。
※右側:DeepForest Technologies株式会社 大西信德さん
左側:モデレーター 桺本 頌大さん
桺本さん起業のきっかけは何ですか?
大西さん高校生のとき、世界各地で熱帯雨林の伐採が進んでいるという話を聞いて、地球環境を守るために、自分なりに何ができるかを考えるようになったんです。京都大学では農学研究科に入って大学院の博士課程まで9年間、ひたすら森林のことを研究していたのですが、その中でドローンを使って得られる森林の情報をAI、つまりディープラーニング技術で識別・分析すれば、今までのように人が森林に立ち入って樹木を一本ずつ調べるのではなく、もっと効率的に森林管理・保全が可能になるんじゃないかと思ったんです。
桺本さん技術開発で苦労したことはありますか?
大西さん修士課程の1年生のとき、今までの研究成果を論文で発表したのですが、国内外の研究者や企業から、うちも使ってみたい!という大きな反響がありました。ただ私が開発したのはプログラムだったので、誰もが使えるソフトウェアにして提供する必要がありました。例えば、木を一本ずつ検出する技術や、木のサイズを推定するアルゴリズムなど、私が不足している技術については京都大学の仲間の力を借りて一つずつ形にしていったんです。博士課程の3年生のとき、京都大学のインキュベーションプログラムに採択され、1年間の支援を受けてリリースしたのが、世界初、樹種識別が可能となる森林解析ソフト『DF Scanner』です。
桺本さんDF Scannerの強みや価値はどこにあるのでしょう?
大西さん木を一本ずつ検出して、種類やサイズ、高さ、太さなどを高精度で識別できるということです。現在では、日本に分布している60種類以上の樹木を識別できるようになりました。一般的に1ha(100m×100m四方)の範囲を人が調査するのに37.8時間かかるといわれていますが、これをドローンとDF Scannerの組み合わせで撮影・解析すると、およそ0.25時間で完了することが可能となります。DF Scannerの最大の特徴は、ソフトウェア自身がどんどん知識や経験を蓄えて学習していくことにあります。より多くのユーザーに使ってもらって、そのデータを私たちが収集・管理することで、世界中の森林を識別することができるようになる、そんなSaaSのようなビジネスモデルも考えられるのではないでしょうか。
桺本さんSDGsの時代、カーボン・クレジット(炭素排出権取引)市場が活発化していますね。
大西さん炭素排出権取引について、日本にはJ-クレジットという独自の認証制度があって、そこでは現在CO21トン当たり1~1.5万円で取引されています。もし、100haの森林を保有していれば、年間800~1000万円の利益を得られる市場が生まれつつあります。例えば、その森林にどんな木があって、分布はどうなっているのかを正確に把握することで、CO2の吸収量を客観的に評価できるようになるでしょう。林業においては、木を植えるのにも育てるのにも大きなコストがかかり、木材として出荷する50年後にようやくリターンが生まれるというのが現状です。森林を保全することが新たな収益につながるという経済的なアプローチを構築できれば、林業はもっと魅力的な産業になるに違いありません。
桺本さんわが国は森林の課題をたくさん抱えていますが、どのような解決策を考えていますか?
大西さん現在の木材の市場構造として、山から切り出された木材を卸売業者が買い、それをハウスメーカー等に販売するという、川上から川下へ流通していく形になっています。もし、自社で保有する森林にどんな種類の木がどれくらいあるかを正確に把握できれば、こんなサイズの木を何本ほしいという…というハウスメーカーからの受注にダイレクトに応えられるようになるでしょう。私たちが提供するソフトをよりたくさんのユーザーに使ってもらうことで、林業の流通改革につながっていけば面白いと思いますね。
桺本さんスタータップとして、今後のスケール戦略はいかがでしょうか?
大西さん 2022年3月に創業して1年余り。環境系VCなどから資金調達を得ることができました。今後は、先ほど説明したJ-クレジットという国が主体のクレジット市場はもちろん、NGOや民間団体等が取り組んでいるボランタリークレジット市場にも積極的に参入していきたいと考えています。また、企業等の経済活動において生物多様性に関するリスクと機会を評価・報告することを促すNFD(自然関連財務情報開示タスクフォース)の動きが世界的に加速する中、私たちの技術が森林での生物多様性評価に活用される可能性は大きく広がっていくと予想しています。2027年の上場を目指して持続的な成長・発展を目指していきたいと考えています。
桺本さんこれから起業を目指す若い世代に向けてメッセージをお願いします。
大西さん現在、林業×ITに挑戦している専門家はほとんどいません。今後、チャレンジ精神にあふれる若い人たちと何か協業できれば、面白い成果が生み出せるかもしれませんね。私自身、森林を保全したい!という強い信念で、これまで研究開発に取り組んできました。絶対にブレない一本の軸を持つことで、どんな困難に直面してもきっと乗り越えていけるのではないかと思います。ぜひこれからスタートアップを目指す皆さんには、自分の夢を叶えるために頑張ってほしいですね。
約1時間にわたって行われた今回のオンラインイベント。
研究者出身の大西さんにとって、スタータップビジネスは初めての経験ばかりで戸惑うことも多かったといいます。しかし、「森林が抱える課題を解決したい!」という高校生の頃から抱いていた夢に向けて、ドローン×AIで世の中にない価値を生み出し、今、新しい未来の扉を自らの手で開こうとしています。
(レポート作成:澤村 花霞)