INTERVIEWインタビュー

株式会社バイオーム 代表取締役 藤木 庄五郎

本記事は、「Kansai Startup News」から転用許諾を得て記載しています。
転用元URL(https://kansai.startupnews.jp/post/biome/

生物の保全がビジネスになる未来へ!前例の無い事業に挑戦する起業家を突き動かす危機感と使命感

「環境を大切にしよう」「生物を守ろう」とよく耳にするものの、自分ごととして捉えることができぬままだった人も多くいると思います。もし環境を守ることが利益に繋がるなら?楽しく遊ぶことによって生物保全に貢献できるなら?もっと身近に感じることができるようになりますよね。そうした生物多様性の保全に繋がる事業に取り組んでいるのが、株式会社バイオームです。代表取締役の藤木さんに、ユニークな事業内容と藤木さんを突き動かすルーツや使命感について伺いました。

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楽しく遊べるアプリなどを使って、生物のデータベースづくりを進める

まずは事業内容から教えてください。

藤木生物多様性の保全が経済的に価値のあるものになれば自ずと保全が進むという考え方のもと、事業を行っています。事業内容のメインは、生物のデータベースづくりです。特に、「どこにどんな生き物が生息しているのか」という分布データをまずは集めていき、保全のための計画や方法を考えていこうとしています。現在の主なデータ収集源は「バイオーム」という、いきものコレクションアプリ。他にも、企業や自治体と協力してさまざまな活動をしながら集めています。

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アプリ「バイオーム」にはどんな特徴があるのですか?

藤木“ポケモンGOのリアルいきものバージョン”と言うとイメージしやすいかもしれません。ユーザーがいきものを見つけて写真を撮ると、AIで名前が判定できて、コレクションできるようになっています。当社としては生物のデータが欲しいという狙いはもちろんありつつ、「ユーザーの価値観を変えたい」という思いがあって。たとえば虫を見たらネガティブな感情を抱く人の方が多いかもしれない。けれど、コレクションになるなら「見つけた!ラッキー!」と思えるようになるでしょう。アプリを使ってもらうことで、今まで無価値に感じていた生物に価値を感じてもらえるようになればうれしいです。

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生物の天気予報を作って、人と生物が共存できる未来を目指す

企業や自治体とは、どんな活動に取り組んでいるんですか?

藤木アプリの中に、 設定されたテーマに沿ったいきものを期間内に発見してクリアを目指す「クエスト」という機能があるんです。その機能を活用して、自治体などからの依頼で広域の生物調査を行ったりしています。子どもたちが楽しめる生き物イベントや市民参加型の生物調査を企画することもありますし、豊かな自然がある自治体や旅行会社と連携しながら、地方創生やブランディングを支援する観光関連のお仕事もいただいていますね。環境や生物に関わりの無い業界は非常に少ないので、さまざまな連携の可能性があるんですよ。

事業について、今後はどんな展望を持っていますか?

藤木生物の天気予報のようなものを作りたいと思っています。環境のデータは、気温や降水量のような無機的なものと、植物・虫など生物全般を指した有機的なものに分かれます。無機的なものは天気予報などの形で整備され、社会や人が活動する上でのインフラになっている。一方で有機的なものはまだ全然整備されてなくて。データベースを作りシミュレーションができるようになると、たとえば「漁獲量が3割減るため、値段が上がるので飲食店の方は注意してください」などの提言もできるようになりますよね。生物と共存して生きていく社会を作るためにも、そうしたインフラを作りたいですね。会社としては5年以内の上場を目指しています。生物の保全をビジネスにして上場できたら、社会にインパクトを与えると思いませんか(笑)

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呼ばれた場所には参加して、泥臭く顔を売った

起業のきっかけにもなった、藤木さんのルーツについて教えてください。

藤木植物図鑑に載っている植物の種を集めてきて発芽の様子を観察している、毎日が自由研究のような、自然好きの子どもでした。釣りにもハマっていたんですが、あるとき外来種ばかり釣れるようになってすごく不安になったんです。絶妙なバランスで成り立っている生態系が壊れているぞと。『世界の砂漠を緑に』という本にも影響を受け、研究者を目指して京都大学農学部に入学しました。転機は、2年半ほど滞在したボルネオ島で森林が伐採されつくしている様子を見たこと。なぜ伐採されるかというと、それを仕事にしてお金を稼いでいる人がいるからで。「保全」だけ叫んで彼らの経済活動を無視するのはよくない。極論、「儲かるから、生物の保全をしていこうよ」といった風潮になるようなパラダイムシフトを起こす必要があると感じて、起業の道を選びました。

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起業してからは、どのようにして動いていきましたか?

藤木プレゼンができる機会や起業家セミナーなどの場に、とにかく顔を出しました。京都はベンチャー支援に積極的な企業や金融機関が多くて、いろんな場に呼んでくれるので。そうすると各所で「おもしろいことやってるな」と声を掛けてくれる人がいて、人を紹介してくれてプロジェクトに繋がりました。京都に育ててもらったという思いがあるので、これからも拠点は京都に置いて恩返ししていきたいですね。

起業してうれしかった瞬間はありますか?

藤木最近、バイオームのユーザーである中学生がオフィスに遊びに来てくれたことです。「僕が広めて、うちの中学ではみんなバイオームにハマってますよ!」って言ってもらえたのがすごくうれしくて。無休でプログラミングもイチから勉強して作ったアプリだし、「すぐサーバーが落ちる」とか「儲からないでしょう」と言われたこともあったので、報われたなあと。誰かが喜んでる姿が一番の力になりますね。

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関西だから許される、ゆっくりとした成長スピードだからこそ生み出すことのできる事業がある

今後、起業を考えている方へのアドバイスはありますか?

藤木事業を続けるのは、相当な覚悟が要ります。お金を儲けることだけを目的に起業した人は、初期の儲からなくてしんどい時期に我慢できず、やめていってしまう人も多いです。僕が頑張ることができているのは、「生物多様性の保全を進めなければ大変なことになる」という危機感と「うちがやらなければ同じ事業をやる人はいないだろうし、10年や20年は環境保全が遅れる」という使命感があるから。事業を続ける理由と覚悟がなければ、続けることは難しいだろうと思います。

関西で起業するのはどんな利点がありますか?

藤木「関西のスタートアップ企業は、関東と比べてスピードが遅い」とよく言われます。これはネガティブな意味に取られがちですが、僕は強みだと思っていて。「1年で結果を出さないといけない」と思いスピード重視で取り組むと、出来ることが限られてくるので、どうしても成功パターンをなぞりがちになると思うんです。でも、5年や10年掛けて事業を育てようと思えば、試行錯誤しながらいろんなことに取り組むことができる。「時間を掛けて事業を大きくすればいい」といった起業支援の土壌があるので、結果的に「なんじゃこりゃ!?これで事業になるの!?」と驚くような起業家も出てきているんです。ものづくりに力を入れる企業やユニークな事業を行う企業は、関西の方がやりやすいのではないかと思っています。

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ライター / 倉本 祐美加

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