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株式会社マリ 代表取締役 瀧 宏文
(2017年11月設立、資本金:1億8,000万円、従業員数:10名)
「世界の睡眠障害をやさしく解決したい」を使命としている株式会社マリ。非接触生体情報センシング技術を用い、様々な見守りに必要な遠隔取得システムの試作や実証を進めてきました。今回は、株式会社マリの代表取締役である瀧宏文さんにスタートアップ実証実験促進事業(PoC)に関連したインタビューをさせて頂きました。
自己紹介をお願いします
瀧さんはじめまして。私は株式会社マリの瀧と申しまして、CEO兼CTOをしております。元々京都大学の医学部出身で医師免許取得後、すぐに京都大学情報学研究科で研究を行いながら、東北大医工学研究科特任教授を務めた後、睡眠時無呼吸症候群に関する研究・開発を行うため、この会社を立ち上げました。
(本社前にて/編集部撮影)
会社のご紹介
瀧さん弊社の設立は2017年11月です。事業内容としては、睡眠時無呼吸症候群の診断や治療装置の開発、非接触で生体情報を取得して、それを元に様々な見守りのサービスや製品を開発しています。治療装置に関しては、現在、医療機器として認めてもらい保険が適用されるよう申請を進めている段階です。市販まで、多くのプロセスが必要なため、おおよそ5年は掛かってしまうかもしれません。ただ、診断についてはもう少し早めにできる可能性が高いため、早く皆様のお役に立てられるよう頑張ります。
見守りに関しては一般の方に使って頂くことを想定していて、例えば保育園や自宅はもちろんのこと、ここ数年問題になっている車内の置き去り防止、介護施設への展開も考えているところです。こちらは薬事承認などのプロセスは無いため、頑張って来年度ぐらいには出せるようにしたいと思っています。
また、睡眠時無呼吸症候群はいびきが特にうるさいことから、パートナーの睡眠不足で不満を持つ方が多く、それを元に様々な問題が発生しています。このことから弊社は本人の治療を行うことを第一に掲げていますが、それだけでなく睡眠障害によって生じる夫婦の問題を解決し、幸せに過ごしてほしいという思いから「Marital Relationship Improvement」の頭文字を取り、MARIを社名に付けました。
今の事業内容について
瀧さん睡眠時無呼吸症候群の一番難しいところは、息が止まっていることを検出するところです。マイクだけだと息が止まっているのか、熟睡しているのかが判別付きません。そのため、我々はミリ波レーダーを用いて呼吸状態を正確に検知するという考えに至りました。横に置いておくだけで、ミリ波レーダーで正確に呼吸状態を測ることができることから、従来型の身体に装着する機器とは違い、何ら患者さんに身体的な負担をかけることなくできます。非接触のミリ波レーダーで心拍の状態も正確に取れるようになると、呼吸と心拍の両方が取れることになり、現在はこれを発展させ、様々な見守りの製品開発も行なっています。
起業をしようと思ったきっかけは?
瀧さん起業前に、スタンフォード・バイオデザインという医療機器の開発を進めるプロジェクトに参画し、その時に発掘したものが現在のコア事業になっています。このプロジェクトでは、患者さんのニーズをどうやって解決するかを徹底的に考えるのですが、その過程で起業したほうがスピード感を持って患者さんの課題を解決でき効率的であると思い、起業を決意しました。
(本社にて/編集部撮影)
どのようにビジネスモデルに出会ったのでしょうか?
瀧さん先ほどお話しした、スタンフォードバイオデザインに参画した際に見つけました。このプロジェクトの進め方として、100〜200個程のニーズを発見するところから行います。発見したニーズから市場性や実現可能性などを検討し、ふるいにかけ、その中からトップ4に残ったニーズがありました。そういったことから、市場性やニーズ的にも十分に解決できると考え起業しました。
このPoCに応募されたきっかけは?
瀧さん応募のきっかけは、京都府からのご紹介でした。いつもお世話になっている、京都府からけいはんな学研都市での実証PoCができるとご案内いただき、応募させていただきました。
今回はどのようなPoCを行いましたか?
瀧さん今回のPoCで実施したことは、「音声解析に基づく生体情報取得はスマートフォン等からでも可能なのか」、というものでした。同時に京都産業21の令和3年度「産学公の森」推進事業にも採択されたこともあり、京都大学との共同研究で行なっていたところから様々なデータ取得をさせていただきました。
具体的な狙いは、どのようなところだったのでしょうか?
瀧さん具体的な狙いとしては、音声解析がどのあたりまでできるのかを知ることです。今までの実験からいびきは検知できますが、無呼吸は検知できないことが分かっていました。ただ、いびきをかいていること自体は睡眠時無呼吸症候群の可能性が高いという示唆する現象であるため、どのあたりまで音の解析で優良な情報が取れるのかを検証しました。
そこに対する費用感や掛かったリソースを教えてください
瀧さんおよそ100万円を使わせて頂きました。これは実験に用いるスマートフォンの購入や記憶媒体などの費用に活用いたしました。それ以外にも京都府には、様々な補助金を頂いているため、それを元に京都大学との共同研究や臨床研究に使う機器の製作、臨床研究を始めるための様々な諸経費に使用いたしました。
(実際にPoCで活用した機器とその計測の様子/編集部撮影)
苦労した点について教えてください
瀧さん問題点をいかにリアルタイムで解決するがとても苦労したところです。臨床研究は止まってはくれないため、そのスケジュールに合わせて開発をすすめなければなりません。PDCAを回しながら色々なことを得られた代わりに問題点もたくさん分かりました。
どのような成果を得られたのでしょか?
瀧さん成果としては、睡眠時無呼吸症候群の診断や治験に関する知見が得られたことです。有用性についてもある程度のことを示すことができたため、それを元にNEDOの補助事業にも申請し採択されました。大きな進歩を得られましたため、支援をいただけたことに大変感謝しております。
周りにどれくらいPoCをおすすめされたいでしょうか?
瀧さんtoC向けのサービスを開発される場合には、けいはんな地域は非常に有用だと思います。去年は新型コロナウイルスで難しい状態でしたが、けいはんな学研都市で住民を巻き込み実証試験できることは大きなメリットがあると思いますのでおすすめです。
PoCについて全体的な感想やご意見を教えてください
瀧さん今回のPoCは新型コロナウイルスの関係から当初の想定どおりに出来ず、京都大学と治験病院にて行いました。本当は、けいはんな地区にお住まいの一般家庭に製品を置き、実験ができればより良かったなと個人的には感じております。
PoCをしたことの気づきを教えてください
瀧さん気づきとしては、今回データを取っていく中で音声データがどこまで有用なのか、最初に仮説を立てていたものと大きく違いました。新たに分かったところを元に、現在は第二弾の治験を京都大学で進めています。色々なデータが今回は集まったため診断するには、どのようなところを注意する必要があるのかがより明確になりました。大変価値のある成果だと思います。
PoCの実施を受け、この先何か考えていることを教えてください
瀧さん特に非接触の形で呼吸や心拍の状態を見守るというのは、今回の新型コロナウイルス感染症への対策としても必要不可欠となりますし、その他の面でも、これから非常に重要なものになり得ると感じています。入院患者の症状が悪化し、呼吸状態が荒くなっているか、呼吸が止まっていないか、という現象を見落とさないためにも、このようなシステムを早く世の中に提供していきたいと考えて、日々進めています。
(本社前にて/編集部撮影)
今後またPoCの機会があれば、応募したいでしょうか?
瀧さんはい、良い機会を与えて頂いたため応募したいと思っております。
この先に描かれている展望を教えてください
瀧さん私は起業した当初から「世界中の睡眠時無呼吸症候群の患者さんの役に立つ医療機器を作りたい」というのを一番の目標に掲げ、海外展開についても視野に入れています。会社名を海外でも通じる「マリ」としたのは、米国など海外の方にも我々の製品を買っていただけるように、思いを込めていて名前をつけているため、早く海外展開をできるようにと進めていきたいところです。
スタートアップとして、京都で経営されるメリットがあれば教えてください
瀧さん京都で起業をするメリットは、たくさんあります。いくつかご紹介しますと、まず1つ目は京都大学を始めとして大学が非常に多く、そこに優秀な学生が沢山おられます。2つ目は大学が非常に多いことから、研究開発や共同研究に関しては新しい技術の開発を進めやすい環境があります。3つ目としては、京都は東京に比べて大企業の数が少ないため学生の皆さまに、採用面やインターン面でも来て頂きやすいところがあります。
最後にこれから起業を考える人や後輩起業家に一言!
瀧さん起業する前の段階で、「どのようなニーズによって、どのような方が喜び、それによってどのような価値を生み出せるのか」を十分に考えた上で行動していくと成功しやすいのかなと思います。私がスタンフォードバイオデザインのプロジェクトに参画した際に言われた、「それは本当に価値を生み出せるのか」という言葉が今でも、とても心に強く残っています。ぜひみなさんも、起業の一歩を踏み出してみてください。
参考(活用された補助金)
・京都府スマートけいはんな実証促進事業補助金
・令和3年度「産学公の森」(「企業の森・産学の森」)推進事業補助金
本記事の問い合わせ先
一般社団法人京都知恵産業創造の森 スタートアップ推進部
E-mail:startup@chiemori.jp