INFLUENCERインフルエンサー

立命館大学 教授/理学博士 山口栄一

研究とは知の創造。博士課程の経験こそが、新産業を生み出すタネになる。

イノベーションのタネとなるアイデアや研究の多くは、大学や企業の研究部門から生まれる。それらを発掘しビジネス化、新産業の創出につなげているのが、今回ご紹介するシリアルアントレプレナーの山口栄一さんです。現在(2021年3月)までに6社を起業し、京都大学名誉教授であり産官学連携本部特任教授(現立命館大学教授)、理学博士でもある山口さんに、京都のエコシステムについてお伺いしました。

世界を変える研究から新産業を生み出すシリアルアントレプレナー

山口先生のご経歴について教えてください。

山口東京大学で理学博士を取得した後、純粋物理学者としてアメリカやフランスで研究員として働いていました。大変素晴らしい環境でしたが、1990年代後半、日本企業が相次いで研究から撤退する「中央研究所時代の終焉」が始まりました。日本のイノベーションは、企業研究から生まれていましたから、日本の終わりがやってくると予感しました。私はその出来事を、「亡国の兆し」「国難」「沈みゆく船」等と呼びました。
自分だけの幸せのためならずっとフランスに住んでいたでしょう。しかし、このままでは日本の研究者仲間も日本全体も不幸になってしまう。危機感を覚え、1998年に帰国しました。

その後、現在(2021年3月)までにスタートアップを6社起業されました。

山口帰国後は、純粋物理学の手を休めて、シリアルアントレプレナーになると決めていました。目的はスタートアップを起こすことではなく、日本に必要な新しい産業を作ることです。新産業の担い手となる科学者を見つけては説得し、会社を立ち上げていきました。
ソニーの河合弘治氏と創業しパワートランジスタ(GaN)を開発した「株式会社パウデック」、15名の学生と起業し全く新しい紫外線センサー(AlGaN)を開発した「株式会社ALGAN」等、世界にイノベーションが起こる研究を見つけてはビジネス化し、産業創出に尽力してきました。
現在は、京都でオルバイオ株式会社を起業して、まったく新しい第5の方法でがん制圧を行なう研究を行なうほか、アメリカで「Paradign」を玉城亮氏と起業し、新しい燃料電池のセパレーターを研究開発しています。

歴史の深い京都は、世界的にエコシステムが充実したまち

シリコンバレー、ロサンゼルス、ケンブリッジ、ソフィア・アンティポリス等、数々のイノベーション都市をご存知の山口先生から見て、京都のエコシステムは充実していますか?

山口環境としては抜群です。これほどスタートアップに適したまちは世界中を見てもなかなかありません。理由は4つあります。
まず一つ目は、歴史があること。新事業を立ち上げる際、時に軸がぶれてしまうことがありますが、歴史が長いので立ち戻って考えることができます。例えば、天文学。5Gも衛星放送のアイデア・技術も天文学から生まれており、歴史を辿っていくと安倍晴明に至ります。医学にしても、様々な体の部位の機能やそれらの関連性は、昔の漢方からきています。明治時代に、日本古来の学問は絶えてしまったかのように見えますが、実は脈々と現代の科学に繋がっているんです。新事業を見つめ直す時、平安時代まで立ち返ることができる京都は貴重なまちです。

山口二つ目は、地下の安さです。狭いワンルームを借りるにしても、シリコンバレーなら30万円、ケンブリッジやソフィア・アンティポリスでも20万円ほどはかかります。でも、京都は10万円ほどで住むことができるので、スタートアップを始めやすいです。
三つ目は、京都府や京都市等の行政、産業支援団体が、時間をかけてエコシステムを充実させてきたことです。京都には、クリエイション・コア京都御車やけいはんなオープンイノベーションセンター(KICK)等、数々のインキュベーション施設があり、単純な不動産ビジネスではなく、コミットしたサービスを提供してくれます。
四つ目は、世界に通用する京都のブランド力です。世界中からアントレプレナーがやってくる魅力は十分にあります。

日本の中で、例えば東京と比較した時の京都の優位性はありますか?

山口東京の方が、ネットワークが多様ですから、経営はやりやすいです。しかし、茫漠とし過ぎています。どこへ行くにも、電車を使わないといけず、都市として大きすぎます。一方、京都は自転車で移動ができ、地域性があります。日本の中では京都・福岡が、アントレプレナーが拠点とするにはふさわしいまちだと考えています。

スタートアップの成長を中長期で見た時、京都の環境はどのように作用しますか?

山口企業には成長が必須です。小さく始める事業も、ゆくゆくは大量生産をする場所が必要になります。もし東京で事業を始めたら、土地に余白が無いため大量生産をするには、近隣地域に出なければなりません。すると、まちとしてのブランド力がなくなってしまいます。
しかし、京都は府内に広大な敷地がありますから、生産拠点をそのまま京都に置けます。特に「けいはんな」は交通インフラが整っています。京都は全体的に見ても、エコシステムが充実している世界的にも稀有なまちです。

研究とは知の創造。博士課程の経験を新産業創出に生かしてほしい。

これからスタートアップを起こす人にメッセージをお願いします。

山口日本の力は落ち、給与水準は先進国の中で下位に位置します。1990年代後半に多くの企業が研究から撤退してから、企業でイノベーションに関わることは難しくなりました。それならば、若い人には自分で見つけたタネで起業して欲しい。前述のとおり京都には、複数のインキュベーション施設や行政の手厚い支援があり、スタートアップを始めやすいです。
いきなり会社を起こすことが難しければ、まずは自分を幸せにすること。お金に余裕があれば、将来あなたが何かに挑戦しようとした時、自由度が広がります。自分を幸せにすることを一番に置き、その上で社会を幸せにしていって欲しいです。

自分のタネを見つけるためにも、博士号を取得することが大切であると山口先生はお考えですよね。

山口はい。なぜなら、創発が一番大切だと考えているからです。発見し創造することは、つまり誰もやっていないことをやり遂げることです。
守破離のプロセスに置いて考えると、修士課程までは先生が指示をくれますが、「離」は博士課程でしか学べません。たった一人で研究をやり遂げることは困難もありますが、その経験こそが人生を豊かにすると思います。

最後に、山口先生がおすすめしたい京都のスポットを教えてください。

山口私にとっては、大文字山(如意ヶ嶽・標高466m)です。京都市内を一望できますし、あれほど気持ち良い場所はありません。
私は本を書き上げたら、必ず大文字山に登ります。朝出かけて、10時頃山頂に到着します。そして大文字の「大」の字の下に座り、出版社に出す前のゲラを最初から最後まで読みます。大文字山で読んだ本、その時の風景は、全て目に焼き付いています。
読み終わると15時頃。下山はなるべく同じ道を通らないようにして、獣道を進みます。
しかし、ある日獣道で迷ってしまい、気づけば大津(滋賀県)に出てしまいました。大文字山は県境という「境界」を超えられるんですよね。つまり、大文字山は博士に求められる「離」を体験できる、貴重な場所とも言い換えることができます。そう言う意味でも、おすすめです。

 

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