インフルエンサー
株式会社国際電気通信基礎技術研究所 代表取締役専務 鈴木博之
世界を変えるイノベーションのタネを生み育てる。世界約70か国から研究者やスタートアップが集まるグローバルハブ「けいはんな」。
京都・大阪・奈良の県境にまたがる「けいはんな」エリアに、今から35年前、文化学術研究都市の中心として誕生したのが、株式会社 国際電気通信基礎技術研究所(略称:ATR)です。京都のみならず関西のハブとして世界中の研究者や政府機関、企業とネットワークを培ってきた、同社の代表取締役専務の鈴木博之さんに京都のエコシステムについてお伺いしました。
イノベーションを起こすグローバルハブ「けいはんな」
まず、ATRの事業について教えてください。
鈴木ATRは1986年、電気通信分野における基礎的・独創的研究の推進を掲げて設立されました。当時、NTTの前身である日本電信電話公社が民営化したばかりの頃。時代の流れに乗り、国の研究機関ではなくあえて株式会社での設立になりました。現在、NTTやKDDI含め111社に株主となっていただいています。
事業は、主に「研究開発」と「事業開発」の2つに分かれます。研究開発では現在4つの分野に注力しています。「脳情報科学」「深層インタラクション」「無線・通信」「生命科学」です。事業開発では、外部機関と連携し、我々の研究成果を活かして世の中の課題を解決する事業づくりに取り組んでいます。
京都もしくは関西の中で、ATRはどのような役割を果たしているのでしょうか?
鈴木グローバルなイノベーションハブであることです。ATRは、京都・大阪・奈良の県境にあります。このエリアを「けいはんな」と呼び、行政とも協働しながら、グローバル連携を進めてきました。連携先の企業は世界19か国で500を超え、バルセロナやイスラエル、インド、カナダ、ニューヨークの政府系機関や民間企業と事業連携しています。我々を含む「けいはんな」がハブとなり、一対一の連携ではなく二次元の連携を構築することを目指しています。例えば、バルセロナのスタートアップがATRの活動に参加し、ニューヨークで投資を受けるとか、カナダのパートナーを見つけるとか。世界中から若い研究者やスタートアップが日本に来て、事業を生み出し、日本が活性化していく未来を描いています。
創設から35年が経ち、海外からの研究者は67か国、2730名に上ります。現在も全研究者の4分の1が海外から来た方です。
近年では、スタートアップ支援にも力を入れられています。
鈴木スタートアップ支援には2種類あります。一つはグローバルスタートアップ支援プログラム「KGAP+」というアクセラレーションです。海外のスタートアップに日本の企業と製品・サービスの実証実験をしてもらいます。ATRは日本企業とのマッチングおよび実証実験のサポートをしています。成果が出れば、企業がスタートアップに投資したり、新規事業として協働事業をつくる流れになります。
もう一つが、2015年2月に創設した「けいはんなATRファンド」です。2020年4月時点で15社のスタートアップ企業へ出資しました。
コンサバに最先端を取り入れる京都らしいエコシステム
京都のエコシステムは今後どうなるといいでしょうか?
鈴木私は京都、東京、ドイツに住んだことがあり、その視点からお答えさせていただきます。まず、京都は東京を目指してはいけないですし、東京のようにはなれません。どちらかと言えば、ドイツあるいはアメリカの中でもシリコンバレーではなくボストンを目指すのが良いでしょう。なぜなら、ドイツやボストンそして京都は、歴史があり、ディープテックが生まれやすい環境だからです。京都は東京やシリコンバレーのように、短期間でスケールアップし儲かるビジネスをつくる必要はないと思います。
では、今後より良いエコシステムをつくるためには何をしていくべきですか?
鈴木コロナ以前は、海外から多くの観光客が京都を訪れてくれましたが、厳しい状態が続き、まちのあり方自体を見直す時期がきているのだと思います。次の50年、100年を想像し、「どういう京都であるべきなのか」を一人ひとりが考えるべきだと思います。
長い歴史のある都であり、京都には元来エコシステムがあるから1000年も続いてきたはず。それを可能にしたのは、コンサバの中にも最先端の物を取り入れることを良しとする姿勢だと思います。
京都はグローバルに人を惹きつける魅力があります。規模は大きくなくていいので、京都の特徴を活かして外に向いて事業をつくることが大切なのではないでしょうか。そのためにはまず、京都の大学が外に開いていくこと。優秀な研究者はたくさんいますから、我々が彼らと社会との接点をうまくつくりながら、世の中に貢献できる事業を生み出していきたいです。
グローバルに通用する都市で、着実に進もう
京都でスタートアップを始める方、頑張っている方にメッセージをお願いします。
鈴木先ほどもお話ししましたが、京都は東京やシリコンバレーと比べて、ディープテックが生まれやすいエコシステムがあります。しっかりと自分の軸を決めて、着実に事業を前に進めていくことが重要だと思います。京都はグローバルに通用する都市です。ぜひ最初からグローバルな視野を持って取り組んで頂きたいです。
最後に、鈴木さんおすすめの京都スポットを教えてください。
鈴木左京区・八瀬にある瑠璃光院です。私は東京と京都の二拠点居住なのでよく東京と比較するのですが、東京はハロウィン、クリスマス、お正月、バレンタインと商売で季節を知ります。食べ物も365日、世界中の物が手に入ります。一方、京都は人の生き方が行事に根付いていますし、食べ物も季節感がありますよね。例えば、和菓子「水無月」を食べるとか、夏になると「ハモ」が料理に出てくるとか。食べ物や行事、風景で季節を感じながら、ゆっくりとまた次の季節に移り変わっていくのが京都らしさだと思います。
風景の中では、桜も紅葉の時期も美しいですが、特に好きなのが青紅葉です。京都の青紅葉を見ると、ドイツの新緑を思い出します。初めて暮らす異国の地で見た、美しい新緑の風景は今も目に焼き付いています。そういう記憶も含め、瑠璃光院の青紅葉は、他にも変えがたい美しさがありますね。
株式会社 国際電気通信基礎技術研究所
https://www.atr.jp/